ドナルド・トランプの原点

映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」The Apprentice
アリ・アッバシ監督
概要
- トランプ米大統領が青年期に不動産ビジネスで成功をつかむまでの曲折を描いた作品
- 1970~80年代のニューヨークを舞台に、自分の可能性を信じて成功を追い求める若き実業家トランプとその成功にかけた男・ロイ・コーンの陰と陽の個性のぶつかり合いを中心にトランプと彼を取り巻く人々のドラマが展開
- ロイは強烈な愛国・保守思想・人脈・法律知識を駆使して、徹底的に身を守り、自分を高く売り、敵を滅ぼす術を教え込み、素直に教えを吸収したトランプがやがて師を超える怪物となっていく過程がつづられていく
- の中からがトランプという怪物が生み出されていく過程が数々の実話エピソードを通じて明らかにされていく
- 桁外れの行動力と有り余る向上心・パワーを持つ青年トランプを演じたセバスチャン・スタン(トランプ)の演技は本人と見紛うほど。トランプの成長と狂気、世界観を体現
- トランプの「師匠」ロイ・コーン役はジェレミー・ストロング。冷戦時代にマッカーシーの赤狩りに協力し「死刑執行人」と恐れられた男の強烈な自負心、傲慢さと思想、フィクサーぶりをみせる演技にはゾッとさせられ、戦慄を覚える
- 上下関係が時の経過とともに逆転し、成功を掴んでエゴを膨らませ、頭皮縮小法と脂肪吸引までして若さを保つトランプと、弁護士資格剥奪と病気により衰弱していくロイとの対比ぶりに、諸行無常の時の流れの残酷さが浮き彫りになる。
トランプの信条となったロイコーンの教え
作品中に見られるトランプの行動のバックボーンになっている考えは以下のとおり。実際の言動とも一致していてリアリティーが感じられる。
アメリカ国民のみならず、世界各地で彼を崇めその考えに同調する動きが見られる。ロシアや中国などの独裁国家の行動原理とも親和性が高く、この数年で世界が再び弱肉強食の帝国主義的な時代に後戻りすることさえ覚悟しておく必要があるかもしれない。
勝者になるためのルール
ルール1:攻撃、攻撃、攻撃。やられたら倍にしてやり返せ
ルール2:絶対に非は認めない。全否定しろ
ルール3:勝利を主張し続けろ。どんな手を使っても勝て
世界観
・モノやルールではなく人に着目すべき。人をどう動かすかが肝心
・世界は混沌とした場所、そこには2種類の人間がいる。殺す者(勝者)と敗者だ
・政治家のほとんどはバカ。自分は政治家を動かす側になる
人生訓として~トランプ的な生き方について
- Art of Dealを極め世界のトップに立つという夢を実現させるため、酒も飲まずに節制して感覚を研ぎ澄ませ、自らの野望に全力投球できるトランプ自身は幸せのようにも、何かに突き動かされ追い立てられてしまっているようにもみえる
- 一方で戦いに勝ち抜いたトランプの成功の陰には、捨てられた妻、踏み台にされた両親、兄、そしてロイ・コーンの不幸がある
- 人生を戦いや闘争に見立てる考えはシンプルでドラマチックだが、敵は徹底的に叩いて、家族も含めあらゆる人を利用し尽くしていくと、周囲には不幸になる人を増やしていくことになるのか?幸せそうに見える今のトランプファミリーの実態はどうなのだろう。
- 結局自分のやりたいことを見つけ、得意なことに集中して生きていけることこそが幸せな生き方。大富豪になっても生活自体は 1日は24時間、ベッドの広さも大差なく、借金や人間関係の悩みは消えず、体の衰えも止めることはできない
関連情報
書籍
第一次政権発足時(2016年)にワシントンポスト取材班より刊行された本「トランプ」(原題Trump Revealed)を再読し、映画の内容はほぼ同書の取材に裏付けられていると思った。同書は綿密な取材でさらに数多くの危機を乗り越えてきたトランプの人生が浮き彫りになっているので、興味のある方には一読をお勧めしたい。
ただし同書のエピソードをみると実際の若年期のトランプはかなりの暴れん坊で自尊心も強く、映画で描かれているほどナイーブで繊細ではかった様子。もともと化けていく素質は十分にあったことがよくわかる。
アリ・アッバシ監督
前作「聖地には蜘蛛が巣を張る」も興味深く観た作品。イラン社会の現状や神権政治の影響、自由に旅行すらできない女性の置かれた状況が実感としてよく理解できる。
(映画公式HPより)
1981年生まれ、イラン出身。テヘラン大学在学中にストックホルムに留学したのち、デンマーク国立映画学校で演出を学ぶ。長編映画監督デビュー作「マザーズ」(16)がベルリン国際映画祭でプレミア上映され、アメリカでも公開される。2作目の「ボーダー 二つの世界」(18)はカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、ある視点部門のグランプリを受賞。続く「聖地には蜘蛛が巣を張る」(22)はカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞・・・今最も期待される映像作家の一人となる。